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ご近所さんは、同じ名字ばかり。

僕が暮らしている立花山の麓は、昔からみかんの産地として知られている。

山の斜面にはみかん畑が広がり、今でも多くのみかん農家さんが、この土地で農業を営んでいる。

先祖代々、畑を耕し、家を守り、暮らしをつないできた人たち。

この地域には、築100年以上の古い家がたくさん残っている。

僕たちが運営している古民家カフェ「こみんかみかん」も、そのひとつだ。

そんな長い歴史を持つ土地ならではの、ちょっと面白いことがある。

それは、同じ名字の人がやたらと多いことだ。

上野さん、草場さん、堀田さん。

特にこの3つの名字は、よく耳にする。

同じ名字の一族が、ある地域にまとまって暮らしているのだ。

なかでも「こみんかみかん」の近所は、堀田さんだらけ。

前の家は、堀田さん。

2軒隣も堀田さん。

少し歩けば、また堀田さん。

もちろん、みんな別の人。

例えば、地元の人と話をしているときに、

「この前、堀田さんからみかんをいただいたんですよ」

と言ったとする。

すると、決まって返ってくるのが、

「どの堀田さん?」

という質問だ。

「いや、あの近所の堀田さんです」

「だから、どこの堀田さん?」

「えーっと、あの・・・」

この地域では、名字だけでは人を特定できない。

だから、名前で覚えなければならない。

はるおさん、みつよさん、といった具合に。

きっと、昔からこの土地に暮らしている人たちにとっては、ごく当たり前のことなのだろう。

同じ名字の人が多いということは、それだけ長く、この土地に家族や親族が根を張り、暮らしをつないできた証でもある。

そう考えると、なんだかいいなぁと思う。

でも、よそからやって来た僕にとっては、なかなか大変だ。

そんなことを書いていたら、ふと思い出したことがある。

僕がまだ30代前半だった頃のことだ。

当時、僕はmixi(ミクシィ)でブログを書いていた。

日々の出来事や、どうでもいいことを真剣に考えてみたり、ときには架空の物語を書いてみたり。

今思えば、ずいぶんくだらないことを書いていた。

その頃に書いた物語のひとつが、今回紹介する「タナカ署」だ。

なぜ、そんな物語を書いたのか。

単純に「世の中がもし同じ苗字だったら?」という妄想を形にしたかった。

せっかくなので、久しぶりに紹介してみようと思う。

当時のストーリーをベースに、

少しだけ会話や情景描写を増やして、2026年版として書き直してみた。

今はAIの時代だ。

文章を膨らませる作業をAIにも少し手伝ってもらった。

しかし、物語の発想や、どうしようもなくくだらない世界観は、あの頃のままだ。

30代前半の僕が考えた、ただ妄想の物語。

ということで、お届けします。

2026年版、ショートストーリー。

「タナカ署」

どうぞ。

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ショートストーリー>>> タナカ署

ここは、警視庁の片隅にひっそりと存在する、ある特殊な捜査部署。

その名も「タナカ署」。

午前9時。

いつものように、捜査会議が始まった。

「被害者の名前は、タナカ・トラキチ、55歳。昨晩、自宅近くの居酒屋で女性と口論になり、店を追い出された後、何者かに殺害されたようです」

重苦しい空気が会議室を包む。

ホワイトボードには、被害者の顔写真と名前が貼られている。

タナカ・トラキチ。

「タナカさん、新しい情報が入りました。被害者のタナカは、以前から交際していた女性とトラブルになり、裁判沙汰になっているそうです」

「そうか。で、その女性の情報はあるのか?」

「はい。タナカ・サクラコ、50歳。タナカとは5年近く交際していましたが、先月、別れたそうです」

「なるほど。タナカとタナカが揉めていたわけか」

「そういうことになります」

「しかし、タナカがタナカを殺したとは限らんぞ」

「もちろんです。タナカ以外の可能性もあります」

「いや、今回はタナカだろう」

「なぜですか?」

「勘だ」

タナカ刑事の勘は鋭い。

もっとも、前回のタナカ殺人事件では、タナカ刑事の勘によって、まったく関係のないタナカが3人も事情聴取を受けている。

「よし、手分けして捜査するぞ!」

捜査主任のタナカが立ち上がった。

「タナカー! お前は、被害者のタナカの自宅周辺をあたってくれ!」

「はい!」

3人が同時に立ち上がった。

「違う! お前じゃない! 髪の長い方のタナカだ!」

「はい!」

今度は2人が返事をした。

「だから、違う! メガネのタナカだ!」

「主任、メガネをかけているタナカは2人います」

「そうだったな。じゃあ、メガネをかけていて、野球が趣味のタナカだ!」

「はい!」

また2人が返事をした。

「なんでだよ! お前はサッカーが趣味だろ!」

「いえ、先月から野球も始めました」

「なんで始めたんだよ!」

「健康のためです」

「サッカーでも十分健康だろ!」

「でも、野球の方が長く続けられるかなと思いまして」

「そんなことは聞いてない!」

主任のタナカは、大きくため息をついた。

「じゃあ、髪が長くて、メガネをかけていて、野球が趣味で、先月結婚したタナカ!」

「はい!」

ようやく1人だけが返事をした。

「そうだ! お前だ! 最初からそう言ってるだろ!」

「すみません。先月結婚したのは僕じゃありません」

「えっ?」

「僕は先月、離婚しました」

「……そうか。それは大変だったな」

主任は少しだけ声のトーンを落とした。

「奥さんは、なんと言ってたんだ?」

「あなたの周りにはタナカばっかりで、もううんざりだって……」

「そうか……」

主任は腕を組み、静かにうなずいた。

「わかるよ。俺もうんざりしている」

「主任もですか?」

「ああ。朝から晩までタナカ、タナカ、タナカ。家に帰れば妻からもタナカと呼ばれる。

もう、どこに行ってもタナカだ」

「そうですよね……」

「でもな、俺たちは一生タナカなんだ」

「……はい」

「タナカから逃げることはできないんだよ」

会議室に、しんみりとした空気が流れた。

誰もが、それぞれのタナカ人生を思い返していた。

しばらくして、主任が口を開いた。

「……ところで、結婚したタナカは誰だ?」

「あちらのタナカです」

「あっ、オレです」

「お前かよ!」

せっかくの感動的な空気が、一瞬で吹き飛んだ。

主任は額に手を当てた。

「もういい! お前、タナカの家に行ってこい!」

「どのタナカの家ですか?」

「被害者のタナカだよ!」

「被害者のタナカは、2人いますけど」

「……え?」

「先週の事件のタナカも、まだ捜査中です」

主任はしばらく天井を見つめた。

「……今日は、もう帰りたい」

「主任、まだ朝の9時15分です」

「そうか……」

しかし、捜査は待ってくれない。

「よし! とにかく行くぞ! オレはタナカの元彼女を調べてみる。タナカー!」

「はい!」

「おまえじゃない! ……タナカー! おまえだ! いくぞ!」

「あっ、はい!」

「タナカちゃーん。今日の戻りは20時にしといてくれ」

「わかりました。タナカさんにも伝えておきます」

「いや、タナカにはオレから伝える」

「どのタナカですか?」

「だから、あのタナカだよ!」

またしても、会議室が静まり返った。

こうして、今日もタナカたちの捜査が始まった。

ちなみに、この部署では名字で呼び合うことが原則になっている。

なぜなら、警察官たるもの、常に規律を重んじなければならないからだ。

ただ、その規律が捜査の効率を著しく低下させていることについては、誰も口にしない。

そのとき、署内の電話が鳴った。

「はい、タナカ署、タナカです」

「タナカさん、いらっしゃいますか?」

「タナカですね。少々お待ちください」

電話を保留にして、タナカが叫ぶ。

「タナカー! 電話だぞ!」

「はい!」

全員が振り向いた。

「……誰からだ?」

「タナカさんからです」

「どこのタナカだ?」

「わかりません」

「じゃあ、どのタナカ宛てだ?」

「それもわかりません」

主任は、そっと目を閉じた。

今日も忙しくなりそうだ。

俺たちは、全国のタナカの平和を守るためにつくられた、タナカ専門捜査一課。

通称「タナカ署」。

日本全国に存在するタナカたちの安全と平和を守るため、日夜、捜査に明け暮れている。

俺たち、タナカ署にできないタナカはない。

それが、モットーだ。

今日もまた事件解決に走り回る。どのタナカか分からないまま。

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