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お店でわざわざ素麺を食べる。をつくりたかった。

こみんかみかんで、素麺を出したいと思っていた。

なぜ素麺なのか。

理由はいくつかあるけれど、

大きな理由のひとつは、たぶん僕の性格にある。

僕は昔から、

普通にあるものに、新しい価値を見つけることが好きだ。

人でも、モノでも、場所でも、

一見すると何でもないものの中に、

「こんな良さがあったんだ」と、

まだ知られていない魅力を見つけることに気持ちが動く。

普通のものに、もっと価値をつけたい。

根本には、そんな気持ちがあるのかもしれない。

こみんかみかんで「麺」を出したいと思った時、

最初はうどんという選択肢もあった。

でも、福岡はうどんの激戦区。

おいしいうどん屋さんがたくさんある。

もちろん僕たちは、うどん屋を目指しているわけではない。

だから、うどんはすぐに選択肢から外れた。

では、夏に家で食べる麺といえば何だろう。

やっぱり、素麺だ。

でも素麺って、

「ばあちゃんの家で、夏に食べるもの」

「家で簡単に食べられるもの」

「わざわざお店で食べるものではない」

そんなイメージがありませんか?

実は、僕もその一人だ。

だからこそ、やってみたかった。

「お店で、わざわざ素麺を食べる。」

その価値をつくることができたら、

それこそ、こみんかみかんが大切にしているものになるんじゃないかと思った。

僕たちが料理で掲げているテーマは、

「しみじみ、おいしい」

そして、

「心地よい驚き」。

この二つだ。

特別すぎる料理ではない。

知っている食材。

食べたことのある料理。

どこか懐かしい味。

だけど食べてみると、

「こんな食べ方があったんだ。」

と、少しだけ驚く。

素麺という料理は、この二つを表現するのにぴったりだと思った。

少し大袈裟に言えば、

これは、こみんかみかんなりの「素麺への挑戦」だ。

もちろん、

「なんだ、やっぱり素麺か……」

で終わってしまう可能性だってある。

でも僕には、

そうはならないという、ぼんやりとした自信があった。

それは、徳島県の「半田素麺」を知っていたからだ。

初めて半田素麺を食べた時、

「これ、素麺?」

と思った。

僕自身が、そこで「心地よい驚き」を体験していた。

一般的な素麺より少し太く、

しっかりとしたコシがある。

素麺らしい喉ごしがありながら、

うどんのような粘りや弾力も感じる。

それでいて繊細で、つるっと喉を通っていく。

「この麺なら、いけるんじゃないか。」

そう思った。

それから、いくつかの素麺を食べ比べた。

やっぱり、半田素麺がいい。

そして、その中で、

「これだ。」

と思える麺に出会った。

次は、何を合わせるか。

最初から、できるだけシンプルにしたいと思っていた。

せっかく麺がおいしいのだから、

具材をたくさんのせて豪華にするのではなく、

麺そのもののおいしさを感じてほしい。

候補には、とろろ昆布や鰹節、山芋、オクラもあった。

でも実際に合わせてみると、とろろ昆布や鰹節は

麺を啜った時に、せっかくの食感や喉ごしを少し隠してしまう。

おいしいけど、麺の感じをとろろ昆布に持っていかれる。だからやめた。

麺と一体化する具材。最初はぼんやりそんなイメージがあった。

山芋とろろと夏野菜のオクラ。これも考えたが、これはすでにうどんや蕎麦で定番の

やり方。だから、うちならではのオリジナリティが欲しかった。

と考えると、やっぱり柚子胡椒なめ茸だ。

最後まで残ったのが、

あきさん特製の「柚子胡椒なめ茸」。

この柚子胡椒なめ茸は定食にも出していたが、素麺をやると決めてから

イメージにあった。これを入れたらうまいはず。

やはり、これが良かった。

なめ茸は、麺と一緒に口に入っても、

麺の食感を邪魔しない。

むしろ、きのこの旨味と出汁が麺に絡んで、

ひとつの料理になっていく。

そこにネギ。

でも、あとひとつ何か欲しい。

肉も考えた。

でも、冷たい素麺に肉を入れると脂が気になる。

茹でた鶏肉も考えたけれど、

ここは思い切って、肉を入れないことにした。

欲しかったのは、

麺と一緒に啜って、最後まで一体になって食べられるもの。

そこで加えたのが、岩のりの佃煮だった。

海苔の香りと甘みが入った瞬間、

味にもうひとつ奥行きが生まれた。

そして出汁には、

徳島県産のブランド柚子「木頭柚子」の果汁を加えた。

柚子のフルーティな酸味が、

冷たい出汁の中に爽やかさをつくってくれる。

暑い夏でも、自然と箸が進む。

そして最後は、もちろんYUZUGO。

これで決まった。

半田麺が持つほのかな塩味。

柚子胡椒なめ茸の出汁と旨味。

岩のりの佃煮の甘味と磯の風味。

木頭柚子のフルーティな酸味。

そしてYUZUGOの香りと辛味。

ひとつひとつは、決して派手なものではない。

でも一緒に口に入った時、

塩味、旨味、甘味、酸味、辛味、香りが重なっていく。

シンプルだけれど、奥深い。

家で食べてきた素麺とは、少し違うものができた。

僕は、シンプルであればあるほど、

おいしかった時の「心地よい驚き」は大きくなると思っている。

見た瞬間に、「すごい!」

ではなく、

食べた後に、「これ、おいしいな。」

と、もう一口食べたくなる。

そんな料理の方が、

こみんかみかんらしい。

すでに何人かの方に食べてもらった。

「こんな素麺、初めて食べた。」

「素麺ってあまり好きじゃなかったけど、これはおいしい。」

そんな言葉をいただいた。

それを聞いた時、

少しだけ、やりたかったことができた気がした。

以前のコラムにも書いたけれど、

僕たちは料理人ではない。

だから、料理人のような特別な技術で勝負することはできない。

でも、「しみじみ、おいしい」

という日常の延長線上に、

「こんな食べ方があったんだ。」

という小さな発見をつくることはできると思っている。

考えてみると、

これは僕が20年以上やってきた広告のクリエイティブと、

まったく同じなのかもしれない。

クリエイティブというと、

世の中に存在しないものをゼロから生み出すことのように思われる。

でも僕は、少し違うと思っている。

すでにそこにあるもの。

いつも見ているもの。

当たり前になって、誰も気に留めなくなったもの。

そこに光を当てて、

「こんな見方もあるんじゃないか。」と提示する。

すると、昨日まで普通だったものが、

少し違って見えてくる。

僕はずっと、そんな仕事をしてきた。

それが20年以上続いて、

いつの間にか身体に染みついていたのだろう。

だから広告をつくっていても、

料理を考えていても、

結局やっていることは同じなのだ。

普通のものの中に、

まだ見つかっていない価値を探す。

そして、「こんなのも、いいよね。」と差し出してみる。

素麺だって、そう。

家で食べる夏のいつもの料理が、

築126年の古民家で食べる一杯になった時、

少しだけ違うものになる。

「しみじみ、おいしい。」

そのあとに、

「こんな素麺、初めて。」

があればいい。

なんでも、つながっている。

僕にとって料理を考えることも、

やっぱりクリエイティブなのだと思う。