お知らせ
きゅうり恐怖症だった僕は、
僕は、きゅうりが嫌いだった。
あの青臭い感じがダメだった。
特に子どもの頃に食べていたきゅうりは、
今よりもっと青臭かったような気がする。
なかでも嫌だったのが、
ポテトサラダとサンドイッチに入っているきゅうり。
しんなりして、ヘナヘナしている。
あの食感がどうにも苦手だった。
きゅうりは、カッパとコオロギの食べ物だ。
本気でそう思っていた。
でも、いつからだろう。
普通にきゅうりを食べられるようになったのは。
考えてみると、30代。
あきさんと結婚してからだ。
初めて、
「きゅうりって、美味しいんだ」
と思った瞬間を、今でもはっきり覚えている。
あきさんの実家の畑で採れたばかりのきゅうり。
それを氷水に入れて、
キンキンに冷やす。
そこに、あきさんのお母さんが作った
ピーマン味噌をつけて食べる。

これが、うまかった。
ピーマン味噌は、
細かく刻んだピーマンを米麹や醤油、砂糖などと一緒に
甘辛く煮詰めて作るもの。
あきさんの家では、
いわゆる「お袋の味」みたいなものだ。
パキッと冷えたきゅうりに、
甘辛いピーマン味噌。
ポリッ。
うまい。
それまで、きゅうりを食べるたびに
少し身震いしていた僕が、
初めて身震いせずに「美味しい」と思った。
ここからだった。
長年僕を縛りつけていた
「きゅうり恐怖症」の呪いが、
少しずつ解け始めた。
まず、一つ成功体験ができた。
「きゅうり=食べられない」
ではなく、
「食べられるきゅうりもある」
に変わった。
なるほど。
食べ方が大事なのだ。
すると、あきさんがここぞとばかりに、
たたみかけてくる。
塩昆布ときゅうりのごま油和え。
ナスときゅうりの中華風ピリ辛和え。

「これはどうだ」
と言わんばかりに、
次々ときゅうり料理を出してくる。
そして僕も、
「あれ、これも食べられる」
「あ、これもうまい」
と、少しずつ成功体験を積み重ねていった。
気づけば、
きゅうりのキューちゃんなんて
永遠に食べられるくらいになった。

人間、変わるものだ。
あれほどカッパとコオロギに譲っていた食べ物を、
今では自分から食べている。
ただし。
いまだに苦手なものがある。
ポテトサラダに入ったきゅうり。
そして、
サンドイッチに入ったきゅうり。
ここだけは、まだ克服できない。
食べれないことはないが、できれば避けたい。
たぶん僕は、
きゅうりそのものが嫌いだったわけではなく、
嫌いなきゅうりの食べ方しか知らなかったのだと思う。
といっても、母親の料理がダメだったわけではない。
むしろ、うちの母親も料理が上手な方だったと思う。
ただ、きゅうりそのものが美味しくなかった。
しかし、
採れたてを冷たくして食べる。
美味しい味噌をつける。
ごま油で和える。
辛くしてみる。
食べ方が変わると、
嫌いだったものの見え方まで変わる。
30代になって、
僕はきゅうりを食べられるようになった。
今まで食べられなかったものを
「うまい」と言えるようになった。
それだけで、ちょっと得した気がする。
そして何より、
僕にきゅうりの美味しさを教えてくれた
あきさんと、あきさんのお母さんに感謝だ。